先に結論

  • AI向けGPU1枚の売価を100とすると、設計して売る側が約70 を取り、製造チェーン全体(ファウンドリ・メモリ・実装・テスト・装置・材料)が残り30弱を分け合う、というのが今回の試算です。

  • 取り分の大きさと利益率の高さは別物 でした。装置メーカーの取り分は売価の1〜2%程度ですが、営業利益率は30〜45%あります。

  • 利益が出る場所は3種類に分かれます。①代わりがいない独占ポジション②ウエハーを流すたびに繰り返し発生する消耗品・部品③需給で価格が決まる製品。①②は利益率が高く安定し、③は振れます。

  • TOTOのセラミック部品はチップ1個あたり0.1%にも届かない取り分ですが、TOTO社内では営業利益の半分以上を稼いでいます。

この記事の読み方(重要)

各社の売上高・営業利益は2026年7月時点で公表されていた決算資料の数値です。一方、 「チップ1個あたり何%」は公表されていません 。取引価格は非公開のため、本記事では各社の粗利率と一般に報じられているコスト構造から筆者が仮定を置いて逆算しています。推計値であり、実際の取引条件とは異なります。特定銘柄の売買を勧めるものでも、将来の業績を予想するものでもありません。

問い:この100円は誰の懐に入るのか

半導体の解説は「設計 → 材料 → 前工程 → 検査 → 後工程 → テスト」という工程の並びで終わりがちです。並びは分かるのですが、それだけだと誰が儲かっているのかが見えません

そこで今回は問いを変えました。

チップ1個が100円で売れたとき、その100円はどう分配されるのか

工程の順番ではなく、お金の流れで並べ直します。前提として、半導体のチェーンは下流ほど金額が大きく、上流ほど本数が少ないという形をしています。GPU1枚には数十個の部材が載り、その部材はウエハー1枚から数十個取れ、そのウエハーは1台数十億円の装置が数百回処理して作られ、その装置には数百点の部品が入っています。

つまり、装置メーカーの売上はチップの売価に対して薄く広く乗ります。ここが直感とずれる部分でした。

試算1:AI向けGPU1枚の取り分

いちばん金額の大きいAI向けアクセラレータ(HBM搭載のGPUモジュール)で考えます。置いた仮定は次のとおりです。

  • 最終的な販売価格を 100 とする
  • 設計・販売するファブレス企業の粗利率を 7割程度(近年のAI向け製品で報じられている水準)
  • ロジックダイは最先端プロセスの大面積ダイ、HBMを複数スタック搭載
  • 先端実装(3D積層)と基板を含む
取る主体何に対する対価か取り分(売価100あたり・推計)
ファブレス(設計・販売)回路設計、ソフト資産、ブランド、需給約70
メモリ(HBM)広帯域メモリのスタック約12
その他部材・基板・組立・検査パッケージ基板、電源部品、モジュール組立約5
ファウンドリ(前工程)ウエハー加工そのもの約4
先端実装(3D積層)ロジックとHBMをつなぐ実装約4
最終テスト動作確認と選別約1未満

最初に見たとき驚いたのは、ウエハーを削って回路を作る工程そのものは、売価の5%にも満たないことです。最先端のウエハーは1枚あたり数百万円と言われますが、そこから大型ダイでも数十個は取れます。1個あたりに割ると、モジュールの売価に対しては小さな数字になります。

言い換えると、AI向けチップの値段は物理的な製造コストではなく、性能と品薄で決まっているということです。ここが半導体の利益構造を分かりにくくしている一番の原因だと思いました。

ファウンドリの4をさらに分解する

では、装置メーカーや材料メーカーはどこから取っているのか。答えは、上の表の**「ファウンドリ 約4」の内側**です。ファウンドリの原価をさらに割ると、装置の減価償却と材料が出てきます。

ファウンドリの営業利益率をおおよそ4割強と置くと、4のうち利益が約1.8、原価が約2.2。その原価をさらに分けると次のようになります。

ファウンドリの原価の内訳主な受け取り手売価100あたり(推計)
装置の減価償却ASML、アプライドマテリアルズ、ラムリサーチ、東京エレクトロン、SCREEN、荏原約1.0
材料(ウエハー、レジスト、ガス、薬液、スラリー)信越化学、SUMCO、JSR、東京応化、関東電化ほか約0.6
電力・水・人件費・その他約0.6
合計(=ファウンドリ原価)約2.2

装置の1.0をさらに分けると、露光(ASML)に0.3前後、成膜・エッチング・洗浄・平坦化の各社で合わせて0.4〜0.5、検査・計測(KLA、レーザーテックなど)に0.1前後、という感覚です。あの巨大な装置産業も、チップ1個の売価に対しては合計で1〜2%程度しか乗っていません。

そして装置メーカーの原価の中に、静電チャックなどのセラミック部品、バルブ、流量制御が入ります。ここまで来ると、チップ1個の売価に対する取り分は0.1%に届きません

売価100 → ファウンドリ4 → 装置1.0 → 装置部品0.05前後

試算2:ありふれたチップだと逆転する

同じ計算を、車載マイコンや家電向けのような成熟プロセスのチップでやると、絵がかなり変わります。こちらは競合が多く、設計側が7割も取れません。

取る主体AI向けGPU(推計)成熟プロセスのチップ(推計)
設計・販売約70約35〜45
前工程(ウエハー加工)約4約20〜25
後工程・実装・封止約4約10〜15
テスト約1未満約5
装置・材料へ流れる分(内数)約1.6約7〜9

つまり装置・材料メーカーにとっては、単価の高いAIチップよりも「ウエハーが何枚流れるか」のほうが効きます。AI向けは1枚のウエハーから生まれる売上が桁違いに大きいので、チップの値段が上がっても装置需要は比例して増えません。装置メーカーの業績が半導体市況とずれて動くことがあるのは、この構造のためだと理解しました。

取り分より大事な「利益率」

ここまでの取り分は「売上の分配」です。投資として見るなら、そこからいくら利益が残るかのほうが重要でした。公表値を並べると、取り分の順番と利益率の順番が一致していないことが分かります。

会社・事業公表値(2026年3月期)営業利益率チップ1個あたりの取り分(推計)
アドバンテスト(テスタ)売上高1兆1,286億円/営業利益4,991億円約44%1%未満
TOTO セラミック事業売上高674億円/営業利益289億円約43%0.1%未満
東京エレクトロン売上高2兆4,435億円装置業界上位の水準1%未満
キオクシア(NAND)売上高2兆3,376億円(前期比+37.0%)市況で大きく変動製品そのもの

アドバンテストは、チップ1個の値段のうち1%も取っていないのに営業利益率44%です。テスタ市場が同社と米テラダインでほぼ寡占状態にあり、値段を相手に決められないからこうなります。TOTOのセラミック事業も同じ形です。

利益が生まれる3つの場所

試算を通して、利益の出方は3種類に分かれると整理しました。ここから先は筆者の見方です。

なぜ利益が出るのか該当する例弱点
①関所型(代わりがいない)そこを通らないとチップが作れない。価格交渉力が売り手にあるASML(EUV露光)、レーザーテック(EUVマスク検査)、東京エレクトロン(塗布現像)、アドバンテスト(テスタ)投資サイクルで受注が止まると一気に空く
②メーター型(流すたびに課金)ウエハーを流すほど消耗・交換され、繰り返し売れるTOTO・京セラ(セラミック部品)、信越化学・SUMCO(ウエハー)、レジスト・ガス各社工場の稼働率が落ちるとそのまま減る
③相場型(需給で価格が決まる)品薄なら跳ね、余れば赤字になるキオクシア、SKハイニックス、マイクロンなどメモリ各社価格を自分で決められない
(番外)設計・ブランド型性能と開発環境で買い手を囲い込み、原価と無関係に値付けできるNVIDIAなどファブレス性能競争に負けた瞬間に値付け力を失う

①と②は取り分こそ小さいものの、チップが何であっても必ず通るため利益が安定しやすい。③は取り分が大きくても利益が読めない。同じ「半導体関連」でも中身がまったく違う、というのが今回の一番の学びでした。

TOTOの0.1%未満が、なぜ全社利益の半分になるのか

一見矛盾して見えるので、ここだけ分けて整理します。

エッチングや成膜の装置内は、高温でプラズマが飛び交います。その中でウエハーを静電気で吸着し、平らに保ち、温度を細かく制御するのが**静電チャック(ESC)**です。金属では溶けたり汚染したりするため、耐プラズマ性の高いセラミックが要ります。TOTOは衛生陶器で培った焼成技術でここに入っています(日経クロステックでも耐プラズマ性のセラミックとして紹介されています)。

TOTO 2026年3月期売上高営業利益
全社7,374億円537億円
うちセラミック事業674億円(前期比+34.0%)289億円(前期比+41.7%)

売上比率は1割弱、営業利益では半分以上。営業利益率は単純計算で約43%です。

チェーン全体での取り分(0.1%未満)と、その会社にとっての儲け(全社利益の半分超)は、まったく別の話です。世界中で作られるチップの総額に対して0.1%を薄く掛けると、衛生陶器メーカー1社の利益構成を塗り替えるだけの金額になります。半導体の「薄く広く」がどれだけ大きいかを示す例だと思いました。

同じ位置には京セラ、日本特殊陶業、クアーズテック、フェローテック、バルブのキッツSCT、流量制御の堀場製作所が並びます。

同じ「AI需要」でも意味が違う

決算の見出しはどれも「AI需要で増収」と書かれますが、試算を通すと中身が違いました。

  • ファブレス:値付け力そのものが利益源。競合の性能が追いつくと崩れる
  • ファウンドリ・先端実装:AIチップは大面積・多層で、1枚あたりの単価が上がる。設備投資の重さが常に付きまとう
  • テスト:チップが複雑になるほど試験時間が延び、延びるほど台数が要る。AIの複雑化がそのまま需要になる数少ない位置
  • 装置・材料・部品:効くのはチップの値段ではなくウエハー枚数と工場稼働率
  • メモリ:需要は増えるが、価格は需給次第で自分では決められない

アドバンテストが特徴的なのは、AIチップの「値段」ではなく「難しさ」に連動している点でした。値段は競争で下がりますが、複雑さは戻りません。

工程・取り分・利益率の一覧

段階主に稼いでいる会社取り分(AI向け・推計)利益の型
設計・販売NVIDIA、アップル、クアルコム/EDAはシノプシス、ケイデンス約70ブランド型
メモリSKハイニックス、サムスン、マイクロン、キオクシア約12相場型
基板・部材・組立イビデン、新光電気、味の素(ABF)、住友ベークライト約5メーター型
ファウンドリ(前工程)TSMC(専業ファウンドリの7割超)約4関所型+装置負担
後工程・先端実装TSMC、ディスコ、ASMPT約4関所型
前工程装置ASML、アプライドマテリアルズ、ラムリサーチ、東京エレクトロン、SCREEN、荏原約1.0(内数)関所型
テストアドバンテスト、テラダイン1%未満関所型
材料信越化学、SUMCO、JSR、東京応化約0.6(内数)メーター型
検査・計測KLA、レーザーテック、日立ハイテク約0.1(内数)関所型
装置部品TOTO、京セラ、フェローテック、堀場製作所0.1%未満(内数)メーター型

調べてみて思ったこと(意見)

ここから先は事実ではなく、調べた私の見方です。

工程を「順番」で並べていたときは、装置メーカーがチェーンの中心にいるように見えていました。お金の流れで並べ直すと、装置は売価の1〜2%を薄く取っているだけでした。それでも営業利益率が30〜45%あるのは、金額が大きいからではなく、代わりがいないからです。

半導体を「儲かる産業」とひとことで言うと、ここが見えなくなります。実際には、値付け力で稼ぐ層(ファブレス)、通行料で稼ぐ層(装置・検査)、流量で稼ぐ層(材料・部品)、相場に晒される層(メモリ)が同じチェーンに同居していて、好況の意味も不況の痛み方も層ごとに違います。

そしてTOTOのように、チェーン全体では0.1%未満の存在感でも、その会社にとっては利益の柱になっていることがある。名前や本業の見え方からは絶対に気づけません。工程からではなく、お金の流れから逆にたどると出てくる、というのが今回いちばんの収穫でした。

この記事の位置づけ

趣味の調べもののメモです。売買の推奨ではなく、将来の業績や株価を予想するものでもありません。各社の売上高・営業利益は決算発表・報道の公表値ですが、 「チップ1個あたりの取り分」はすべて筆者が仮定を置いて計算した推計値 で、実際の取引価格・契約条件とは異なります。判断の際は必ず一次資料(各社IR)をご確認ください。